ホンダよ、永遠なれ。 〜課外活動的F1の終焉〜(後編)

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前編ではライバルであるメルセデスと比較しながら、ホンダのF1活動における体制およびビジネスモデルの特徴を説明した。

[前編はこちら]

後編は第4期でホンダが作り上げた資産の活用、またホンダの第5期F1活動の可能性について考えてみたい。

その前に… 振り返るには時期尚早とも言えるが、第4期活動におけるホンダ製パワーユニットが歩んだ道からおさらいしてみよう。

苦労の末、価値の高さを知らしめたホンダ製PU

ホンダは2013年5月、かつて黄金時代をともに築いたマクラーレンと再度タッグを組み、2015年から同チームにパワーユニットを供給することを発表した。しかし、いざ復帰を果たすと明らかな信頼性とパフォーマンスの不足により、2人の元王者フェルナンド・アロンソ、ジェンソン・バトンをもってしても、グリッド後方に沈んだのであった。

ホンダとマクラーレンが組んだ2015〜2017年の“辛い時期”についてこれ以上触れる必要はないかもしれない。「彼らは別れなければいけなかったのだ」と表現すれば納得してもらえるのではないだろうか。

それほどホンダと組んだマクラーレンも、マクラーレンと組んだホンダも良くなかった。

そのころ、PUメーカーと「夫婦仲」がうまく行っていなかったレッドブルがホンダに接触した。まずはBチームであるトロロッソ(現アルファタウリ)に2018年から、2019年にレッドブルへのPU供給を開始した。日本でも 絶大な知名度と人気を誇るレッドブルとホンダのタッグには多くのF1ファンが期待を寄せた。 F1パドックで最高の空力とコーナリング性能を誇るレッドブルのシャシーにホンダPUが搭載される。『ホンダF1復帰後の初優勝は本当に達成できるのだろうか…?』ファンにとってはそんな不安もあっただろうが、期待の方が圧倒的に勝っていたことは言うまでもない。

結果としてレッドブル・ホンダはその期待に見事に応え、2019年シーズンに3勝を挙げることで ホンダのPUの大躍進を印象付けた。『もうGP2エンジンじゃない、俺達のRA619Hは戦えるぞ!』 そんな心意気がPUのエキゾーストノートから聞こえるかのようだった。そして2020年シーズン、コロナ禍で開幕が遅れたもののレッドブルのマックス・フェルスタッペンによる勝利、そしてアルファタウリのピエール・ガスリーまでもが大金星を挙げたのだった。ガスリーが勝利を挙げた時、誰もがこう確信したはずだ。

『ホンダF1はここからだ!メルセデスを打ち倒すための長い戦いが始まる!』

価値には対価を求めるべきだった。

しかし、現実はそうはならなかった。ホンダは2050年のカーボンニュートラルの実現を目指すため、F1活動の終了を宣言したからだ。前回の記事で解説した通り、ホンダのF1活動はホンダの社員がその活動を支えており、かつ莫大なコストも負担している。一説にはそのコストは1000億円を超えるとも言われている。

今となっては遅きに失した提言でしかないが、勝利を狙えるPU性能を実現できたホンダは、その対価をレッドブルやアルファタウリに求めるべきだった。もちろん、1000億円を超えるほどの対価を求めることは非現実的だったとしても、一定の対価を受け取ることをキッカケとしてF1でのビジネスモデルを始めることもできたはずだ。そう、ホンダはF1のPU開発を「商売」にできなかったのだ。

さらに言うならばFIAも高コストのPUレギュレーションの維持はF1 の未来にとって得策ではないことに気付いていよう。なればこそ『我々は撤退も辞さない』という本気のカードを有効に使いながらFIAとその他のPUメーカーとの政治的な駆け引きを仕掛けても良かったのだが、それができる人材はどうやらホンダには一人もいなかったようだ。

F1活動継続・復帰の可能性はあるのか

Martin Lee from London, UK, CC BY-SA 2.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0, via Wikimedia Commons

F1活動第2期のように、「無限」に技術や人材を関係企業に引き継ぐ『リブランディング』方式があり得るのではないか、という見方もメディアには散見される。

結論から書けば、リブランディングによるF1活動継続の可能性はほぼゼロと言えよう。

ホンダ自身もその可能性を検討していたはずだ。しかし、幾多の議論を経て辿り着いたのが『F1活動終了』という結論であり、もっと現実的に言えば、我々が容易に想像できるアイデアはすでにホンダ内でもその可能性が議論し尽されていると考える方が自然だ。(もしそれがポジティブな効果をもたらし芽のある手段なのであれば、それらの座組が決まってから撤退発表を行うだろう)

一方、PUに関する技術的な知的財産をレッドブルに提供し、第三者でホンダPUの技術を活用するという噂も散見される。残念ながらこの噂も『PUの開発・維持に必要なコストを誰が負担するのか?』という最大の課題に対する答えを持ち合わせていない。レッドブルにとっても PU の開発や管理運営のために数百億円規模の年間予算を工面することは困難であろうし、仮にコストの課題をクリアしたところで、栃木のHRDや英国拠点で働く優秀な人材の引き抜き、PU製造に必要な設備やノウハウを技術移転することも容易ではない。

レギュレーションの観点で言えば、現時点では 2024年からPUの開発が凍結されることになっている。レッドブルはそれを2022年に前倒しするべくFIAと交渉しているようだが、これに関してはPU開発で大きな遅れを取っているフェラーリが同意するかは疑問だ。フェラーリとしてはメルセデスやルノーに追いつき、追い越す時間を可能な限り確保したいからだ。

こういった背景もあり、様々な選択肢の可能性を完全に否定することは出来ないものの、いずれの可能性も言葉で語るほど簡単ではない。

では、将来的なホンダのF1復帰の可能性はあるのだろうか?この可能性は決してゼロではないが、ホンダが『社員の技術力向上』という拘りを捨て、F1をビジネスとして成り立たせることが大前提だ。しかし、それはホンダが望むF1活動の在り方ではないであろうし、現在のホンダにはF1でのビジネスモデルをリーディングできる人材がいないと見える。それ故、現時点に限って言えば将来的なF1復帰を想像することも難しいと言わざるを得ない。

今、私たちに出来ることは何か?

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F1の世界における厳しい現実を身に染みて痛感し、意気消沈した読者もたくさんいるだろう。だからこそ、ここではホンダが再びF1に復帰する可能性を高めるために私たちが出来ることを考えようではないか。筆者の考えは単純明快だ。

2021年最後のレースまで心の底からホンダを応援し、
感謝の言葉を精一杯伝えよう。

これだけである。F1から去るホンダへの感情的な批判はいらない。そのような批判をすれば、未来のホンダとF1の距離は遠ざかるだろう。それは果たして世界のF1ファンが望むことだろうか?未来永劫、ホンダがF1と無縁の会社となって良いのだろうか?いや、そうではないだろう。

今、最も悔しい想いをしているのは、何よりもホンダの社員たちだ。そんな彼らを2021年の最後まで力強く応援しようではないか。そして、その熱意をありったけ伝えよう。その熱意が巨大になればなるほど、将来的なホンダのF1復帰の可能性は高まることになる。

いつか、俺たちは絶対にF1に戻ってくる。
だから、信じて待っていて欲しい。

こんな想いがホンダF1を支えるホンダ社員たちの心に芽生えたのであれば、もうそれは未来に 向けて大きな可能性の種が蒔かれたと言って良いだろう。そして、F1の2021年シーズンが終わり、ホンダF1活動が終了を迎えた時、僕らはこう言って彼らの肩を優しく叩いて送り出そうではないか。

今まで本当にありがとう!さようなら。
ところで、F1にはいつ戻って来るの?

あとがき

皆さん、こんにちは。改めてホンダF1終了発表後、酒量が増えてしまったマリー・F・ミナガワ(ちなみに私は女子です、念のため)です。ホンダさんのせいで、ここ数日はお肌の調子が悪い…責任を取って頂きたい(苦笑)。

さて、port Fさんへの記事の寄稿も三回目となりましたが、読者の皆さんはどのような感想をお 持ちになりましたか?もし宜しければ感想など、コメントを寄せて頂ければ幸いです。今後も 読者の皆さんにとって『読んで良かった!』『そうだったのか!』といった喜びや発見を持って頂けるよう他の日本語メディアで読めないような冷静・客観的かつ、みなさんが知りたいことを届ける記事を書きますので、どうぞご期待下さい。

With all my love, Marie

ホンダよ、永遠なれ。 〜課外活動的F1の終焉〜(前編)

ホンダ、F1活動終了へのシナリオ

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青天の霹靂とはまさにこのようなことを言うのであろう。2020年10月2日、ホンダがF1活動 の『終了』を発表した。世界中のF1ファンがこの発表に度肝を抜かれたことは言うまでもなく、 その中でも日本のホンダF1ファンは絶望的なショックを受けたようだった。ファンの心に沸々と湧き上がる、こらえようのない怒りと悲しみのメッセージは(もちろん擁護や理解の声も)瞬く間にSNS上に溢れ、その連鎖は今も収まる気配が見えない。

ホンダが公式に発表したところによると、撤退の理由は「カーボン・ニュートラル等の環境対策に、資金や人材などの社内リソースを振り向けるため」とのことだ。

2015年から始まった第4期ホンダF1活動。ホンダは『F1はずっと続ける』という言葉と共にF1への参戦を再開したのだからファンの怒りは無理もない。いくつかのメディアに至っては、過去にホンダが宣言した言葉と八郷社長の記者会見時のコメントに矛盾を見出し、痛烈な批判を浴びせている。しかし、こんな時だからこそ私たちは落ち着いて事態を客観視した方が良い。なぜなら感情論は時に本質を見誤るからだ。

なぜホンダが F1活動終了という決断に至ったのか?

今回は、その真相をF1の世界における「ビジネスモデル」を軸に置きながら掘り下げることにする。

メルセデスのF1活動体制

2019 Championship Celebrations – Brackley and Brixworth – Steve Etherington

ホンダのF1活動を振り返る前に、まずはホンダの最大のライバルであるメルセデスに着目しよう。 皆さんはメルセデスのF1活動の体制をご存知だろうか?意外と知られていないのだが、彼らのF1活動は3つの“会社”によって構成されている。

まず一つ目はメルセデスAMGペトロナスF1チーム (以下メルセデスF1)だ。

拠点は南ノーサンプトンの小さな街、ブラックリーにある。メルセデスのF1チームと言えば、このブラックリーの拠点を指す。元々は第三期ホンダF1活動の車体開発拠点でもあり、2008年のホンダF1の突然の撤退後、跡を継いだブラウンGPを経てメルセデスF1の拠点となった。

二つ目はメルセデスAMGハイパフォーマンス・パワートレインズ (MA-HPP)だ。

拠点は北ノーサンプトンの郊外にあるブリックスワースという街にあり、パワーユニット(PU)の開発を担当している。イルモアというエンジン開発会社を起原に持ち、F1には1991年からエンジンサプライヤーとして参戦していた実績を持つ。少々ややこしいのだが、MA-HPP発足後もイルモアは存続しており、MA-HPPから徒歩圏内の距離に拠点がある。

そして最後の一つがドイツのダイムラーAGだ。言わずと知れたメルセデス・ベンツのブランドを持つ、世界トップクラスの自動車メーカーであり、メルセデスF1とMA-HPPのオーナー企業でもある。 しかし、ダイムラーAGはあくまでオーナー企業でありF1の車体開発とPU開発は前述のそれぞれ 2つの子会社に任せ、人材採用もその子会社が独自で実施している。

このように、メルセデスのF1活動はF1チーム運営と車体開発を担うメルセデスF1とPU開発を担うMA-HPP、これら2社によって成り立っており、ダイムラーAG はあくまでオーナー企業としての役割を担っているだけだ。そして、メルセデスのF1活動体制の最大の特徴は、親会社ダイムラーAGとは独立採算制であることだ。

前年度の成績に応じてFIAから支払われるチームへのプライズマネー(賞金)、タイトルスポンサーであるペトロナスを筆頭としたスポンサーマネー、グッズやロゴなどから得られるライセンス収入、さらにMA-HPP製PUをレーシングポイントやウィリアムズに供給することで得られる収入などもあり、オーナー企業であるダイムラーAGの業績に影響を受けにくい体制となってい る。

ホンダのF1活動の特徴

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メルセデスのF1活動がイギリスに拠点を持つ2つの子会社によって運営されていることとは対照的に、ホンダのF1活動は一貫して本田技研工業の企業活動として運営されてきた。予算も人的リソースも全てをホンダ本体が負担するスタイルだ。車体も手掛ける「オールホンダ体制」だった第3期F1活動の頃は、現地雇用した経験豊富な車体開発エンジニアを中心に開発していたが、前述のブラックリーにはホンダの栃木研究所の技術者が数多く出向していた。

またホンダのエンジン開発は伝統的に栃木研究所が担ってきた。現在の第4期F1活動の初期、 ホンダは前述したイルモアに協力を依頼したり、IHI製ターボチャージャーを使用した経緯はあるものの、設計と製造はほぼ日本のホンダ社内で行われており、現在のホンダPUは正真正銘のメイド・イン・ジャパンいや「メイド・イン・栃木」と言って良いだろう。

参戦直後から失敗続きで苦戦していたPU開発は、その後着実に性能を向上させていった。2020年シーズン現在、未だメルセデス製PUに勝つには至っていないが、ホンダPUは2015年の参戦開始当時と比べ劇的な進歩を遂げたことは、誰しもがうなずくことだろう。

しかし、ホンダはコンストラクターではないため、良い成績を残しても賞金はレッドブルが受け取る。またエンジンも無償に近い形で供給していると考えられるため、F1活動における「現金」としての収入は限りなく少ないと推測される。

初期投資以外では“ドイツに住む親の財布”には手を付けず、自分たちの仕事だけで帳尻を合わせながら戦ってきたメルセデスと、“日本に住む親の財布”で戦うことを前提に組み立てられたホンダ。

それでもホンダは『社員の技術力向上』および『ブランド力の獲得』という旗印の下に、自社社員をF1開発に携わらせてきた。これがホンダF1活動の大きな特徴であり、『日本企業と日本人がF1で活躍する姿を見たい、応援したい』という日本人F1ファンの願望にも応えてきた。皮肉にもこの特徴こそがホンダF1活動終了のトリガーとなってしまった、と考えられる。

ホンダが将来にF1に戻ってきて欲しいと願わずにはいられない。しかし、冷静に考える程、 ホンダがF1に戻ってくる可能性はほぼゼロという結論にしか至らない。その理由については後編に詳しく書かせていただこうと思う。

[後編に続く]

ミナガワのヒトリゴト

ホンダF1活動終了の事実を知ったその夜、私は不覚にも痛飲してしまいました。 当然、私にとってもホンダがF1からいなくなることはとても寂しいことなのです。そして何よりも心痛ましいのは、ミルトンキーンズにあるホンダF1の英国拠点で働く私の先輩の夫が、来年末にも職を失いつつあるということです。闘志を燃やし、苦しい時も戦い続けた彼らの気持ちを思うたび、ビールの空き缶が増えていくのです。

あぁ、無情…(プシュっ!)

模倣は確信犯?ピンク・メルセデスの真の狙いとは

LAT Images

はじめに

皆さん、初めまして。イギリス在住のフリーランスジャーナリストのMarie. F. Minagawaと申します。今回、縁あってport Fさんからご依頼を受け、F1最前線の独占手記を執筆する機会を頂きました。私はこれまでに海外を拠点に置きながら、モータースポーツ系メディアでの現地取材と編集のサポートに携わってきました。今回、このような執筆の機会を頂いたことをきっかけに、モータースポーツライターとして日本向けに情報発信をさせて頂くことになりました。

取材経験はそれほど長くありませんが、F1は英国で小さい頃から見ておりますし、モータースポーツの現場である英国だからこそ得られる現地取材の貴重な情報を元に、これまでにない新しい視点で今回の独占手記をお送りしたいと思います。

2020シーズン最大のトピックとは

BWT Racing Point Formula One Team

2020年のF1が開幕した。COVID-19のパンデミックの影響で本来の開幕戦オーストラリアGPがキャンセルされてから4ヶ月が経過し、ようやくレースが開催されたことでF1関係者だけでなく世界中のF1ファンもその瞬間を喜んだだろう。そしてシュピールベルグでの2連戦は、随所で激しいバトルが繰り広げられる展開となった。予想されたメルセデスの強さを除けば…ではあるが。

その開幕戦でひと際印象的なパフォーマンスを見せたチームがある。それがレーシングポイントだ。バルセロナテストで初披露された彼らの2020年シーズンのマシンは、瞬く間に話題、いや議論と批判の的となった。その理由は、その姿にあることは言うまでもない。昨年のメルセデスのマシンW10にあまりに酷似していたからだ。そして誰が初めにそのあだ名を口にしたのか、そのマシンは『ピンク・メルセデス』と揶揄されることになった。

批判の声の大きさは、開幕戦と第二戦の結果を受けて更に大きなものとなる。

フェラーリの予想外の失速もあるが、その理由は『ピンク・メルセデス』がトップ3に食い込むパフォーマンスを見せたからだ。ルノーは自らのマシンと比較して、レーシングポイントを凌ぐことが困難であることを悟ると、これ聞けよがしに批判の声を挙げた。さらにFIAにレギュレーション違反を提訴。徹底抗戦の構えとなった。

FIAはその後レーシングポイントに対し違反の裁定を下し、15ポイント剥奪と約5000万円の罰金となったが、「原告」であるルノーをはじめ数チームがさらなる厳罰を求めて、またレーシングポイントは裁定を不服として控訴。争いは長期化の様相を呈している。

課題の本質は本当に『コピー』なのか?

「コピーマシン」の批判の声はF1関係者だけでなく、F1ファンからも挙がっている。速いマシンを単にコピーすることがF1の世界でやるべきことではないのではないかと。F1では独自の車体開発も競争の一部だ。だからこそ、己のプライドを賭して独自開発すべきである。このような声が日本に限らず世界中のファンからも数多く聞かれる。

しかし、議論すべきテーマとして『デザインのコピーの是非』は本当に適切なのだろうか?忌憚なく書くのであれば、コピーの是非を議論することは極めて近視眼的な見方であり、少々短絡的ではなかろうか。確かに両者のマシンを比較した写真をF1を知らない人にも見せたならば、誰しもが『酷似している』が『同じ』だと言うだろう。

そのことは火を見るより明らかであるにも関わらず、なぜレーシングポイントは極端にメルセデスW10に酷似したマシンを開発することを敢えて決意したのか?『コピーして速ければそれでいい』と彼らは本当に考えているのだろうか?また、ルノーを除く他チームは忸怩たる思いをしつつも、なぜ批判の矛先を彼らの喉元に突きつけずにいるのだろうか?

数多の疑問や批判があるが、今回のコラムではF1の政治的なダイナミズムを鑑みながら、背景に潜む本質課題を推察しながら繙いてみることにしよう。

現代のF1チームの形態

まず、現在のF1チームの形態を大まかに分類してみよう。大まかに現在のF1チームは三つに分類できる。

LAT Images

最初の分類に挙げるのは、フェラーリのように車体とPUをどちらも独自開発しているチーム。この分類にはフェラーリの他、メルセデスとルノーが挙げられる(厳密には少し違うのだが)。この分類のメリットは、PUと車体を自分たちの掲げるコンセプトで設計・最適化できることだろう。一方、コストという点で言えば、PU開発に莫大な予算が必要であることがデメリットと言える。

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次の分類は、車体は独自開発するがPUサプライヤからPUのみ供給を受けるパターンだ。この分類にはレッドブル、マクラーレン、ウィリアムズが該当する。この分類のメリットは、PU開発に予算を必要としないことだろう。PU供給に掛かるコストだけを負担するだけで良いのだ。また、レッドブルはホンダから無償でPU供給を受けていると考えられており、更なるコスト削減を期待することも可能だ。

Photo by Andy Hone / LAT Images

最後の分類は、PU供給をサプライヤ(つまりフェラーリ、メルセデスなど)から受けながら、車体についても一定の技術支援を受けるパターンだ。この分類にはアルファタウリ、ハース、レーシングポイント、アルファロメオが該当する。この分類の最大のメリットは、少ない予算規模でマシン開発が可能なことだ。2000年代に自動車メーカーが参戦し、F1に多額の予算を投じ合ったことで高騰してしまったF1の開発コスト。その開発競争の影響を最も受けたのが、この4チームと言っていい。今となっては、トップチームからのパーツ購入を活用しなければ、彼らはF1の世界で生き残ることが難しい存在でもある。

生き残りと上昇を賭けた戦略

では、存続の危機に常に怯えなくてはならない中団チームがF1の熾烈なコンペティションで生き残り、さらに上を目指すにはどうすれば良いのだろうか?その最適解をレーシングポイントが今まさに見せてくれているのではないだろうか。もう一度言うが、現時点でメルセデスの昨年型マシンW10を模倣することの是非を議論することに価値はない。なぜなら、その手法はレーシングポイントと同様に(その程度に差はあるが)、アルファタウリ、ハース、アルファロメオもすでに実行済みだからだ。

しかし、これまでの取材で得た情報と推察を一つ一つ繋ぎ合わると、ある興味深い仮説に辿り着く。

レーシングポイントの現オーナーはファッションビジネスで巨額の富を築いた敏腕ビジネスマンのローレンス・ストロールだ。彼のF1との関わりの歴史を知れば、彼がこの世界での成功をいかに欲しているかが良く分かる。将来的にレーシングポイントをトップチームの一角とし、そのオーナーとして君臨することを狙うローレンスの戦略は次のようなものではないだろうか。

現在のレギュレーションは2021年で終わることになっている(本来は2020年であったが)。また、レギュレーションだけでなく新コンコルド協定の締結など、現在のF1は歴史的に見ても大きな変革期に直面している。そのような状況下でレーシングポイントが2022年以降のレギュレーション下でトップチームの一角となるには、新レギュレーションによるバジェットキャップ(予算の上限額制限)が本格化する前の段階から、資金と時間を効果的に先行投資することが必要だ。しかし、そこに注力するあまり現行レギュレーション化でのレースをおざなりにし、下位に沈んでしまえばランキングボーナス(FIAからの分配金)という原資が目減りしてしまう。これはレーシングポイントに限った話ではなく、F1に参戦する全てのチームが抱えるジレンマだ。

では、中団チームが新レギュレーションに対応しながらも現行レギュレーションのシーズンを短時間・低コストで最大のパフォーマンスを引き出すことにはどうしたら良いのか?その答えが『現行レギュレーションの最適解を徹底的に模倣する』ことだ。模倣はあくまで新レギュレーションへの先行投資を最大化するために考えられた対策であり、ただ速ければ良いという短絡的な考えに基づいているものではないのだ。

レーシングポイントの矜持やいかに

BWT Racing Point Formula One Team

メルセデスのW10の空力デザインコンセプトを模倣し、2020年シーズンに好調さを見せるレーシングポイント。もちろん、外見をW10を模倣しさえすれば速さが発揮されるわけではなく、過去のF1の歴史を見れば模倣作が失敗したという事例はF1の世界では枚挙に暇がない。過去に優勝も経験したジョーダンGPをその起源に持つレーシングポイントであればこそ、模倣したF1マシンでも結果を出すことが出来るのであろう。

それゆえ、ライバルチームからレギュレーション違反を提訴される事態が引き起こされているが、それもレーシングポイントが想定していた事態のはずだ。先にも述べたように徹底的な模倣は、あくまで現行レギュレーション下でのみ最大限の成果を得るための方策だ。そして、現時点でその戦略はレーシングポイントの想定通りに機能しているようだ。

一方、模倣が今後も続くことはF1チームとしての独自性という観点では好ましくないことは言うまでもない。今後もレーシングポイントとメルセデスとの協力関係は続いていくと考えられる。2021シーズンにチーム名をレーシングポイントからアストンマーティンへと変え、新レギュレーションを迎える2022シーズン。その時に彼らがどのような新型マシンを見せてくれるのか?

そのマシンが姿を表す時、現行レギュレーションで模倣するという策を選んだ真の理由と、彼らの持つ矜持がトップチームと言えるF1チームに相応しいものかどうか。それを我々は知ることになるであろう。ここに書いた仮説が正しかったかどうかもその時に分かることになるが、今からその時が楽しみである。

今宮さんのこと

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皆さま、こんにちは。ミヤケです。
年が明けてすぐ、とても残念なニュースが届きました。
モータースポーツ・ジャーナリストの今宮純さんの訃報です。

日本のF1テレビ解説の先駆者、今宮純氏が急逝。享年70歳
https://jp.motorsport.com/f1/news/f1-jun-imamiya/4642945/

すでに70歳になられていたわけですが、現役でテレビ解説をこなされていたのでこの報にはただ驚くばかりでした。

今日のブログは今宮さんについて書かせていただこうと思います。

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あなたはF1を走らせる人間の話を聞いたことがあるか

こんばんは、ミヤケです。
オーストリアGPに引き続き、イギリスGPも熱いレースになりましたね。
つまらないと揶揄されていた最中のこの2レースは、鳥肌が立つ瞬間の連続。
これぞF1と言えるオーバーテイク、デッドヒート、人間のドラマが凝縮され、また次のグランプリが待ち遠しくなりました。

今年も…

「Live Talk!」の季節です。
そう、昨年に引き続き、現役F1エンジニアの神野(こうの)研一さん、元Toyota Gazoo Ladyの杉山愛奈さんをゲストに迎えて、『Live Talk! port F Vol.2』開催します。

非常に濃い3時間が約束されておりますよ。

「ん?約束されている?んなことあるかい!」と思った方、以下に上げる理由を一字一句読んでから、ミヤケに噛み付いてください。
(噛み付くためのミヤケの個人Twitterはこちらです)

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エフワンとオンガクの話をしよう

The Chemical Brothers - We've Got To Try
The Chemical Brothers – We’ve Got To Try

こんばんは。残り少ない平成の時代をいかがお過ごしでしょうか?
今日は、珍しく?音楽の話をしたいと思います。

なんで音楽の話?

なぜ突然、音楽の話を始めるのかというと、某大学教授の桐野美也子さんが配信されているポッドキャスト「F1ファンになる方法」を拝聴したところ、「F1とケミカル・ブラザーズの楽曲がタイアップしたことについてどう思うか、port Fのミヤケに語ってもらおう」とご指名を頂いたからです。

そのポッドキャストがこちら
F1ファンになる方法 #F1Log by 桐野美也子

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モータースポーツで仲良く遊ぼう – オフ会開催報告

3月9日、神宮外苑をレッドブルが爆走(Naoyuki Shibata/Red Bull Content Pool)

こんばんは、ミヤケです。
毎日の気温変化が激しくカラダがついていかなくなったのは年令のせいでしょうか(つらい)。

今日は、去る3月9日に開催した第2回port Fフォロワーズ・ミーティング(オフ会)のことを書こうと思います。

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突然ですが、研究チームを作ろうと思います

David Clerihew/Red Bull Content Pool

2018年12月15日追記

少しずつ活動をしている「port F Lab.」ですが、コントロールが難しくなるかもしれないという理由でメンバーの数を制限していましたが、そのような懸念は今の所見えませんので、もう少し増やしてみようと思います。

以下の記事をよく読んで、希望の方はご応募ください。


こんばんは、ミヤケです。
今日は前置きなしで、不躾にも用件だけ書かせていただきます。

突然ですが、port Fの研究チームを作ろうと思います。
仮称は「port F Lab(ラボ)」です。

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僕が鈴鹿で見た景色。

鈴鹿のF1日本GP・土曜日の夕暮れ

唐突ですが、実はここ数ヶ月「port Fは何をすべきなのか=Goal」を考えていたのです。

何度も思いを巡らせて、最終的に辿り着いた答えは2つしかありませんでした。

1. 日本でモータースポーツを“見る人”を増やす
2. 日本でモータースポーツを“やる人”を増やす

まず、「なぜ=Why」、そう思ったのか。
これには理由がない。

あえて言うなら、ものすごい頭脳を持った人々が、一国を動かせるほどのお金を持った大企業が、想像もしないような技術やアイデアをひねり出し、超一流アスリートが心技体を鍛える努力を惜しまず、サーキットでは、まるでジェットコースターに乗りながら囲碁をさすような戦いを繰り広げる。

「こんなにおもしろいものを人が知らないのはもったいない、やらなくなるのはもったいない」と言ったところでしょうか。

そして「どうやって=How」。我々はどのように前述の「Goal」に到達したらいいのか。
これは、かなりとても長いストーリーになりますし、秘密の部分も多いし、何より恥ずかしながら未完成な部分も多いです。

その未完成の「How」を作り込むヒントにしたいと思い、今年の鈴鹿F1GPはレースそのものは去ることながら、鈴鹿を訪れる人々の観戦スタイルが見たくて、他のお客さんを注意深く観察していました。

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【ほぼほぼ推測?】それでもドライバー・オブ・ザ・デイに投票したほうがいい理由

Photo by Mark Thompson/Getty Images) // Getty Images / Red Bull Content Pool

こんにちは、先日のF1日本GPで鈴鹿に行ってきた余韻がまだ残っているミヤケです。

レースでのハミルトンの無敵ぶりもさることながら、レースを楽しむ皆さんのそれぞれのスタイル、情熱、興奮ぶりがとても印象的でした。

僕は6年ぶりにF1を鈴鹿で見たのですが、本当にいろいろ発見がありました。
その発見が何だったのかについては、また機会を改めてブログに綴るかもしれません。少なくともport Fの運営に活きることは間違いない、そう感じました。

さて、前置きが少々長くなりましたが、今日は「ドライバー・オブ・ザ・デイ」について書きたいと思っています。

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